河川用語

河川用語

【かわ】の語源
 私たちの祖先は、山から海に流れる川をどうして「かわ」と呼んだのであろうか。「かわ」にはどんな意味が含まれているのか。
 「かわ」を漢字で表わすと、川・側・皮・厠などがあり、川は村の外側を水が流れる所。側は外側・内側など位置的な意味があり、皮は、リンゴの皮・ライオンの毛皮など、生物の身体を包む外側の膜を意味し、トイレの厠は、母屋に対し外側にある屋敷を意味する。
 いずれの「かわ」にも共通するのは、一番外側の意味がある。これらのことから、川は集落の外側(端)に位置する所から生まれた言葉なのか。

川と〔谷・沢・洞・渓〕の使い分け
 谷・沢・洞・渓のいずれも、山と山に挟まれたV地形・凹地形の所を水が流れている。谷・沢・洞・渓の幅が広く、凹部の所に田畑や家屋も在る場合には水の流れる所を「川」として区分けする習慣になったと解釈される。また、谷を「たに」と撥音するのは関西ことば、「や」と撥音するのは関東ことばと言われる。谷よりも小さい所を沢と呼ぶが、地方によって異なる習慣があり、洞・沢・谷・渓の使い分けも方言と同じで、地方によって習慣が異なる。谷・沢・洞・渓の分布範囲を調べることも興味がわく。

[がわ]と[かわ]の撥音
 かなりの確率で、自然の川は「○○がわ」と濁音を付けて撥音し、人工の川は「かわ」と濁音を付けずに撥音する川が多い。たとえば、東三河を流れる豊川は「とよがわ」と撥音し、渥美半島に引かれた豊川用水は「とよかわようすい」・豊川市は「とよかわし」と濁音付けずに撥音する、なぜなのか。自然の川は洪水の時に土石流で川が濁るから、濁音つけて「がわ」と呼ぶ習慣になったと推測され、先人は、濁音を通して、川の恵と荒みを教示したのであろうか。

なぜ【河川】というのか
 国語大辞典で[河・川]を見ると、「地表に集まった水が、傾斜した陸地のくぼんだ所を流れるもの。と記述されている。また漢和辞典には、【川】は川が流れている形にかたどられる。外側の線が川の両側で、中の線が川の水。と記述されている。また【河】は、イ)水。ロ)ほりわり。ハ)運河。と記述されている。川は自然の川で、河は人が造った構造物とある。【河川】とは、自然の川と人口の河すべて地表に集まった水が流れる所を言う。この語法は(道路)(天空)(海洋)などと同じ重複語法で日本語の特徴なのである。

なぜ川の最下流を【河口】というのか
 はるか4万年ほど前に大陸から黒潮海流に乗って漂着した我々の祖先が、海から湾に、湾から川を遡り内陸に辿り着いた。その時から【河口】とは、海から内陸に入る入り口と定められたのであろう。その後、物資の輸送路(舟運)として利用する人間社会では、川の出入口を【河口】と言い継がれてきた。すなわち人間の営みから河口と呼ぶ習慣がついたと解釈され、川を主体に考える思考回路は無かったのである。

川の長さは河口から
 川の始点は河口なので、川の長さも河口から測った長さ。

【分水嶺】ぶんすいれい
 降水が二つ以上の水系に分かれる嶺を言う。

【分水界】ぶんすいかい
 地上に降った雨が二つ以上の水系に分かれる境界を言う。

【源頭】げんとう
 川から見た分水嶺の表現で、水源地の頭を指す。

【水源地】すいげんち
 川の流れが生まれる地点を言う。

【流域】りゅういき
 降水が川として集まる区域。源流域・上流域・中流域・下流域など区分して使う場合もある。

川の右岸と左岸
 川の流れる方向(下流)を向いて、右手側を右岸、左手側を左岸という。すなわち、人は右、車は左の交通規則と同じく、川の進む方向を正面にして、右左としている。この決まりだけは、川を主体としている。

【逆川】さかさがわ
 川は山から海に向かって流れるのが通常である。しかし満潮の時や高潮の時に海から山に向かって水が流れる川がある。このような川を水が逆さにながれる「逆川」と呼ぶ。また山間地で、坂道を下っているのに川の流れは逆流(遡って)いると錯覚する区間がある。このような区間を「さかさがわ」と呼ぶ場合がある。

【湾処】わんど
 国語大辞典で湾処を見ると、「入江。また、川の淀みや淵をいう。」と記述されている。わん[椀・碗・湾]とは、飲み物・川水・海水など、すべて水が淀む所を意味する言葉なのである。気象変動期の地球は、男性的な気象となり、降れば大雨大洪水、晴れれば高温・旱魃と極端な気象に変動した。湾処・遊水地・ダム湖など流木や岩石を貯留する水が休息する場所が必要な世紀になったのである。

【護岸堤】ごがんてい
 洪水や悪霊から集落を守る堤防を【護岸堤】と言う。国語大辞典には、まもり(守・護):1)見張りをすること。敵に対する備えをかまえること。守備。警備。警護。「固い守り」。2)神仏などの加護があること。神仏などがわざわいを取り除き、幸運をもたらしてくれること。また、そのような神仏。守り神。守護神。神の守り。3)神仏の霊がこもり、人を加護するという札。また、それを入れる袋。守り札。おまもり。護符。守り袋。と記述されている。

【犬走】いぬばしり
 堤防の【いぬ走り】は、小段・ステップ・バームを指す。しかし本来の犬走りは、神社や地鎮祭に張られる注連縄とおなじで魔除の意味を持ち、先人の言い伝えから「龍が怒り洪水となるのだ」村を悪魔から守る【護岸】にいぬ走りを設け監視しようとしたのが【犬走】なのである。国語大辞典には1)築地の外壁と、その外側の溝または敷石の間の小路。犬の通い得るほどの空間の意。 2)城の垣と堀との間にある狭い空地。3)建築物の外壁に沿った周囲の部分をコンクリートや砂利敷きにしたもの。またいぬ【犬・狗】は人の守りとも魔よけともなり、物の怪を追い払うという。と記述されている。

なぜ堤防の斜面を【外のり・内のり】というのか
 堤防とは、集落を洪水から護るために築かれた片側の堤であった。このことを理解すれば内法・外法が理解できる。

外法:堤防の外側(集落の外側)の斜面、水が流れる川側の斜面を指す。
内法:堤防の内側(集落側)の斜面を指す。

なぜ橋の名前には濁点がつかないのか
 川に架かる橋は、集落の外側(端)を流れる川から生まれた言葉なのである。また、橋のひらがな表記の銘板には濁音がついていない。例えば、矢作川に架かる矢作橋のひらがな銘板は、やはぎはしと濁音が付いていない。撥音するときは「やはぎばし」と濁音をつけて読む習慣がある。なぜなのか?濁音をつけると、川が濁る、川が濁るのは洪水が起きる事で、橋が流されることにつながる。だから銘板には濁音を付けない習慣が生まれた。いやそうじゃなく、江戸時代まで、ひらがなに濁音を付ける習慣が無かった、濁音を付けるのは明治になってからである。はたして土木屋の先達はどのような思考であったのであろう。

ハザードマップと河川環境保全
 気象変動期に入り、予期せぬ自然災害が多発する今日、各市町ではハザードマップが作成され、水害危険地域等が示されている。また「多自然川づくり」や「生物多様性」など環境保全の大切さが喚起され、川の領域は人間社会と自然界との棲み分け境界であり、自然との共存をはかる共生の場でもあると言える。

沿革と変遷について

沿革
 物事の移り変わり、今日までの歴史。変遷ともいうが、ここでは少し広い範囲で捉えた。沿革には「変わらぬモノ(沿)と変わるモノ(革)」があり、この場合、名称などが消滅した場合も含む。

変遷
 時の流れとともに移り変わること。ここでは、例えば、「○○村の沿革」の場合では、その一つに「地名の変遷」というように沿革の細目として取り扱った。

本流と支流、渓流、源流の使い分けについて

 一般的に、最も上流に源流を持ち、海へ注ぐ河川を本流、本流に合流する河川を支流といい、本流は、途中でいくつもの支流を合わせ、流量を多くし、川幅を広げて海へ注いでいます。
 そこで、これら本流と各支流のまとまりを「水系」といい、通常、本流の名前をつけて「○○川水系」といいます。庄内川本流と各支流のまとまりを「庄内川水系」といいます。
 なお、地形の関係などにより本流から分かれて別のところで海へ注ぐ河川(派川)をもつ水系もあります。

※国や都道府県では通常、本流を「本川」、支流を「支川」と呼んでいます。そして、これらの河川を、河川法で「国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で、政令で指定した河川で建設大臣が指定してもの」を一級河川(第4条)、これ以外の水系で「公共の利害に重要な関係がある河川で都道府県知事が指定したもの」を二級河川(第5条)、また、これ以外の河川で「市町村長が指定したもの」を準用河川(第100条)と規定されています。このことから、一級河川のまとまりを「一級水系」、二級河川のまとまりを「二級水系」と呼んでいます。

本流
 ここでは、「矢作川」及び「庄内川」である。この本流にも上流、中流、下流(域)といった地域(流域)の名称を使う場合がある。

支流
 本川に合流する河川のこと。本川の右岸側に合流する支川は「右支川」、左側に合流する支川を「左支川」、また、本川に直接合流する支川を「一次支川」、一次支川に合流する支川を「二次支川」というが、ここでは、これらの全てを「支流」と称した。

渓流
 一般に谷川の流れを指すが、ここでは、本川に直接流入する沢などもいう。また、地域により、「渓流」という言葉を使わないところもあるが、ここでは、渓流という名称(例:○○川に注ぐ渓流)を使用した。

源流
 河川の始まりは、岩や斜面から染み出す湧水から始まる。これは次第に幅を広げながら斜面を下りやがてはっきりとした流れる地形をつくり出す。前記の「渓流」と明確な区分はないが、ここでは「河川の始まりのところ」とした。

源頭
 谷の最上流、尾根に到達する場所を源頭という。
 河川の源頭部は谷頭侵食によって隣接流域にまで入り込み、結果として流域界を移動させ、河川の流域を広げることがある。また、時として、隣接する河川の途中から上流側をごっそりと奪い取ることすらあり、このような現象は河川争奪と呼ばれる。河川争奪は隣接流域間で河床高度や流量・河床勾配等が著しく異なり、河川の侵食力に大きな差があると起こりやすい。一般に、上流部を争奪された河川は、その流量に不調和な幅広い無能谷を有することが多い。


川をせきとめて、田へ水を引き入れる口。みずくち。(「な」は「の」の意)


 水源地で、雨水などを吸収して水源の枯渇を防いだり、水流が一時に河川に集まって洪水を起こすのを防いだりする目的の森林。水源涵養林。『小学館国語大辞典』


川の水が流れ出てくるもと。分水界付近の地下水がわき出る所。みなもと。